アフタークルーズ III

アンティーブ

5.Antibes (アンティーブ)
地中海に面するお洒落なリゾート地アンティーブはギリシャ時代の町アンティ・ポリスが発祥です。ローマ時代の城塞の一部グリマルディ(Grimaldi)城が現在ピカソ美術館となっています。第二次世界大戦直後ここに滞在したピカソはパリ解放そして大戦終了の喜びもあったのでしょう『生きる喜び』(La joie de vivre)なる作品を残しています。

   la joie de vivre 生きる喜び

1966年世界で初めてピカソ美術館と称したこの城塞は前面に紺碧の地中海が広がり、南仏の陽光の下ピカソの制作意欲を掻き立てたようです。彼はこの所謂コートダジュールが気に入り近くの町々に居を移しながら多くの作品を制作しました。その一つが陶芸で有名な隣町のヴァロリスです。7年もの間この町に住み作陶に打ち込み、膨大な数の作品を制作し衰退し始めていた町を復活させました。まさに『生きる喜び』だったのではないでしょうか。70代になったピカソは『生きる喜び』のためにも平和の尊さを感じていたのでしょうこの町の修道院の礼拝堂(現在の国立ピカソ美術館)に『戦争と平和』なる大作を残しました。
地中海に面しているアンティーブ・ピカソ美術館 窓から見える地中海には幾つものヨットが碇泊しています 降り注ぐ陽光の下、テラスに佇むリシエのブロンズ像 生れ出た故郷を見つめるミロの"海からの女神" ヴァロリス 戦争と平和

メモランダム:マントンのコクトー美術館も波打ち際にありますが広さ、テラスからの見晴らしの良さの点からも軍配はこちら。ここにアトリエを提供された時のピカソの喜びが推察できます。ただでも『生きる喜び』を描きたくなると思います。この絵の前で床に胡坐をかいた小学生の小グループが先生から説明を受けていました。横の窓の外を見ると青い海に白いヨットが浮かんでいました。どんな大人になるのでしょうね? 晴れた6月の午後訪れてみてはどうでしょう。

Biot

6.Biot (ビオット)
ニースとカンヌに挟まれ、少し山側に入った高台にある鷲の巣村がビオットです。現在ではガラス工芸の村として知られています。この村にはフランスに3館しかない画家の名を冠した国立美術館の1つである国立フェルナン・レジェ美術館があります。彼の死後弟子でもあった夫人が彼の作品を世に知らしめるため創設し、後に国に寄贈したのがこの美術館です。中庭側壁面に展示された、もとはドイツ・ハノーバーの競技場のために彼がデザインした巨大なモザイク画が圧倒的な迫力で来館者を迎えてくれます。第一次大戦に従軍し大砲などの兵器の機械美に魅せられ、第二次大戦中過ごしたアメリカでは都市建築に美を見出し画法としては、立体キュービズム(cubisme )からパイプのチュービズム(tubisme)に移行したりと変化していきます。来館者は夫人が意図した通り、絵画、版画、モザイク、ステンドグラス、陶器、オブジェと多才な彼の作品を時代順につぶさに鑑賞できます。色鮮やかな大きなオブジェがいくつも置かれている中庭のオープンカフェでは南仏の明るい日差しのもと作品を眺めながら軽い食事もできます。
もとはドイツの競技場に予定していたもの 駐車場側にも大きなモザイク画が ①〝7月14日”1914年制作 ②〝アダムとイブ”1934年制作 ③〝4人の自転車乗り”1948年制作 ④〝建てる人”1950年制作 陶板1 陶板2 ステンドグラス ビオットの町にはガラス工芸の店が軒を並べています

メモランダム:最近フランスでは作品の撮影が許される美術館が多くあります。このレジェ美術館も許されています。比較的観覧者の少ない中で写真撮影をしながらゆっくり鑑賞できました。特に知らなかったこともあり絵画以外のモザイクと陶板画(?)の美しさに驚き感動しました。ただ中庭のオープンカフェでの昼食に時間を取り過ぎ鑑賞しきれず4年後に再訪しました。

サン・ポール・ド・ヴァンス

7. St-paul de Vence (サン・ポール・ド・ヴァンス)
ニースとアンチーブの間を山側に車で30分ほど走ると小高い丘の上に教会の鐘楼が見えてきます。コートダジュールで最も人気のある鷲の巣村のひとつサン・ポール・ド・ヴァンスです。嘗ては単にサン・ポールでしたが数多くの同名の町村と区別するために2011年以降は、詩人や歌手が使っていた隣町ヴァンスの名前を付けた村名になっています。16~17世紀の家々が並ぶ路地には最新のファッションを飾る店や彫刻、絵画、オブジェなどを展示するアートギャラリーが軒を連ねています。多くの観光客が満ち足りた様子でカフェの木陰で憩っています。村を囲む城壁に腰掛け南を眺めると彼方にグランモットのリゾートマンション越しに紺碧の地中海が輝いています。イブモンタンが結婚披露をし、シャガールが20年暮らし墓もあるまさに風光明媚な芸術村です。

人気の鷲の巣村サン・ポール・ドヴァンス 城壁に座ると遠く地中海が見える 村中がアート作品展示場 ねこ 村のペタンク広場にこの作品 住民と作品の距離は極めて近い 村で最初に出会うアート作品

この村のはずれにあるのがマーグ財団美術館(Musee Fondation Maeght) です。
パリに画廊を持ち画商でもあるマーグ夫妻が近・現代の芸術作品を誰でもが自然の中で鑑賞できるようにと親交のあった芸術家たちと共に作った美術館です。1964年7月の開館式で当時の文化相アンドレ・マルローが「未だ嘗てない試みがなされた」と賛辞を述べた通り、美術館の建設工事中から彼らは建物と周囲の庭園・自然環境に調和するよう作品を制作・設置したのです。「歩く男」達のジャコメッティの中庭、彫刻・オブジェにあふれるミロの迷路、シャガールの壁面モザイク画、ブラックの泳ぐモザイク魚のいる池と白い鳥と紫葵のステンドグラス等などどれも周囲にマッチしています。
コルビジェの弟子スペイン人ホセ・ルイ・セルトの設計 S.P.d.ヴァンスから坂道を15分ほど歩くと到着です ミロ迷路の入り口の番人? ブルガリア人梱包の芸術家クリストの石室墳墓 ジャコメッティ、ミロ、シャガールを独占です。何故か嬉しくなります ミロ ステンドグラス 楽しくなるミロと後ろはクリストの墳墓 ミュージアムショップ外壁のシャガール ミロ 雲の位置も考えていたのでしょうか?  ブラック 白い鳥のステンドグラス なるほど、建設中に制作したブラックのモザイク魚 マーグ夫妻の望みの通り地中海松の林の中に作品が

メモランダム:村は芸術作品であふれています。道の中央に猫(の像)がいたりダンスを踊る女性(像)がいたり加えて思い思いの作品を飾るギャラリーが軒を連ねています。多くの観光客はここで思いを遂げたようです。ここから案内も十分でない坂道を15分歩くマーグ財団美術館には驚くほど観覧者がいません。でも正面入り口に近づいた時、いい処に来たと確信します。村とは異なり静寂の地中海松林の中、緑の芝の上に作品がどうぞご覧くださいと展示されています。館内ではミロ、ジャコメッティ、シャガール、ブラック、レジェ・・・が間近に独占鑑賞でき何故か嬉しくなります。マーグ夫妻の多くの人に自然の中で自由に作品鑑賞をとの考えから美術館はイベントでの利用もできます。2018年ルイ・ヴトンのファッション新作発表会はここで行われました。